青い作業着。グレイの作業着の遠い思い出。#notethon
イシダテックの青い作業着。
私の中でイシダテックはブルーって決まってるみたいなところがある。会社のロゴはグリーンなのだけど、社員の皆さんが並んで写ってる写真から鮮明に私にとびこんでくるあの青い作業着のブルー。
そのイメージは、私の意識のどこかに残っていた。
友達を飛行場に送ってきた帰りの車の中で、作業着を着た祖父の姿がふっとよみがえった。グレイの作業着。
祖父母の家の敷地には工場があって、祖父は帯状になった大きなノコギリを磨くというかノコギリの刃を精製するような仕事をしていた。静岡の裕福な家庭の末っ子として生まれた祖父は、父親の代で落ちぶれて大阪に丁稚にだされた。兄弟子にいじめられ、それでも腕が立ったから、戦時中の疎開先で自分の工場とともに独立した。祖母は小さい頃に母親を亡くし、継母にいじめられ家から追い払われるように、嫁いだ。
祖父は小柄だったけれどハンサムだったから、祖母は嬉しかったという。が、水彩画や園芸を楽しむような繊細な祖父と、賢いけれどガサツで気がまわらない祖母は、相性が合わず夫婦仲が悪かった。
二人の娘がうまれ、長女が私の母である。私は初孫だった。
私には弟ができて、母に連れられて祖父母宅へ遊びに行き、家と工場のある敷地内で二人で泥遊びをした。ノコギリが機械で研がれる音を聞きながら、爪を真っ黒にして地面を掘り、水を流してダムをつくり、泥団子にその季節の草花や木の葉を飾っておままごとをする。
夢中になって遊んでいると、時々祖父が工場からでてきた。
おじいちゃん、ほら!
グレイの作業着姿の祖父は、私達を見てにっこりする。
工場の入り口にはちょっとした休憩室があって、そこで祖父と一番弟子のタケさん他数人の弟子がタバコを吸ってお茶を飲む。木の椅子に背もたれはなくて、煙管をつかっていた祖父のタバコ箱もたしか木製だった。
グレイの作業着は、祖父が働いているというその象徴だった。父は銀行員だったが、私にとっての「働く」イメージは祖父の作業着だった。
だから。
大人になってから、祖母が「あの作業着を洗うことに屈辱を感じる」と言っていたと、母から聞いて私はびっくりした。
「おじいちゃんが汗だらけになって働いた作業着のどこが、屈辱の対象になるのか、ママにはさっぱりわからなかった」
母はそういう祖母に反発し、学校ではいい子なのに、家では荒れた。成績の悪い叔母は逆に学校では反抗し、家では母親べったりだったから、担任の先生と話すと祖母は混乱したらしい。
美人でチヤホヤされ尽くした叔母は商社に就職し、お見合いの話が途切れず、一流企業に勤める人に見初められ結婚。シンガポールやアメリカに転勤になる夫について華やかな海外生活を送り、祖母は得意だった。
知的な美人だった私の母は、「あなたが好きです」と言われ、なんで好かれているのかわからないと「あなたは何党支持ですか?」と思わず聞き返し、「それとこれとがどう関係あるのか」とぽかんとされたことがあったという。
銀行に勤めた母は、別の支店に勤める父と、行内イベントで出会う。汗をかいている父にハンカチをわたし、父が汗をぬぐって返そうとしたときに「ちゃんと洗って返してください」と、また会う口実を作ったんだそうだ。
婚約がきまり、祖母は父の実家をこっそり見に行った、6人の子供を抱えて夫を亡くした母親の手一人で育てられた父は、6人姉兄弟の下から二番目。商売をやっていたけれど、その店はまるでいつ倒壊しても不思議じゃない有様。6人兄弟のなかで最優秀だった父は、大学にいかせてもらうお金がなかったから商業高校に進み、学年トップの成績で銀行就職をめざす。片親の子が銀行なんかに就職できるわけがないと近所の人にいわれ、(父方の)祖母は銀行に直談判にいった。父は地元の地方銀行に就職し、みるみるうちに出世するのだけど、(母方の)祖母がみたのは、ボロ屋。
でも、母は父しかいないと確信して、結婚した。
叔母は不幸な結婚で華やかな海外生活を送り、40代で癌を発病した叔父を亡くす。いいトコ育ちの大金持ちと再婚し、頭が悪く彼のハイソな仲間たちの会話についていけない叔母は、彼女の美貌に騙されたケチな夫から間接的に意地悪されつづけ、躁鬱を患った。
母と父は誰が見ても羨むような素敵な夫婦になった。
「お前の結婚は正しかった。」と祖母が母に言ったという。
それをまっすぐ認めることのできる賢い人だった。
イシダテックの青い作業着をみると、国のほんとのほんとの基礎はサービス業ではなく製造業であるべきだと思う。
何かをつくりだすということの素晴らしさ。自分の手でコレをつくりだしたんだという自信と満足。どんと腰が座っている感じがある。体幹が揺らがない感じがある。
日本民族は勤勉で優秀だ。正確に作業することができる。正しいことが何かを知っている。手を抜いて作った製品が、消費者に迷惑をかけることを知っている。
アメリカ東海岸から、イシダテックの皆さんを応援しています。