焼津×漁業×デジタル化、そしてイシダテックとAI。
総務部のこやまです。
先日、2023年6月14日、静岡県/水産・海洋技術研究所 さまにて開かれた 第72回水産加工技術セミナー・ヒスタミン測定講習会セミナー に弊社社長の石田が登壇させていただきましたので、内容をまとめます。
まず、焼津と言えば―。
多くの方は "さかなのまち" と答えます。
ここ最近はイベント類も従来通り行われるようになり、水産物の需要は比例して増加が予測されると言われています。
しかしながら原料高などコスト上昇には歯止めがかからない状況です。
今回登壇したセミナーは、そんな環境下において、業界関係者のみなさまにとって役立つ情報を提供することを目的とされていると説明がありました。
そして実に第72回を数えるセミナー、そのテーマは「かつお」でした。
そもそも:静岡県水産化学技術研究所とは
イシダテックからは車で10分程度。
焼津の「新港地区」に立地する研究所に向かいます。
海洋・漁業の研究に加え、漁獲から流通・消費に至るまでの鮮度保持技術の研究、衛生や健康に関するテーマまで幅広い研究が行われている場所です。
セミナー要旨
では早速本題へ。今回のセミナーでは、AIを活用した魚種・良否判定および体重選別システムの開発 というタイトルにてお話をしています。
目視と人手で行われる水揚時の冷凍カツオの選別。
弊社は現在、AIを活用することで魚種・良否判定および体重選別システムを開発することで省力化実現を目指しています。
現在目下進行中であるプロジェクトの最前線の視点から、仕組み、成果、課題やビジョンを伝えさせていただくことにしました。
フェーズ -1 ~ 0|概念実証・AI初期検証
当然の話なのかもしれませんが、AIとて全知全能ではありません。
AIが解決策として適切か
(適切な場合)その解決策は成り立ちそうか
を予めクリアにしてからプロジェクトとして走らせる必要があります。
フェーズ -1 ・ フェーズ 0 という2つの段階を経て実現可能性を担保した上で フェーズ 1|AI検証 へ進んでいるという状況です。
データ収集とAI検証に向けて
そして脳にあたる部分は水揚げ作業実施中の新港を訪問し、ワークの撮像:カメラでコンベア上を流れてくるカツオをカメラで撮影する作業を実施し、データ収集を行いました。
カツオまたはそれ以外の魚種の識別が概ね可能と判断されるとともに、インスタンスセグメンテーションというタスクによって、撮像された画像内にカツオが複数匹存在していても、1匹1匹をそれぞれ別の物体として正確に認識できることも明らかになりました。
フェーズ 1|AI検証へ
下記スライドはロジックの一例を示したもの。
船内で冷凍されて焼津港に運ばれ、コンベアを流れてくる大量の魚。
魚種選別や外観の検査を実現するためには、これまで行った現地視察やデータ収集・実現可否に基づいて条件分岐を設定しています。
データをきれいに整えて、検証へ
では条件分岐を検証・実現するためにどうしていくかというと、データクレンジングと正規化という作業を重ねることになります。
中原さんがかつて…
と表現していた作業のひとつがこれです。
カメラで撮像したデータをそのまま投入・学習させるだけでAIが成立することはなく、分析可能な形式に修正・加工していく作業を行っていきます。
中原さんが進めるこの作業によって、Gabage In, Gabage Outを回避・検証を進めていきます。
次元削減や特徴選択など、様々な手法があると聞いたことがあります。
素早く・効果的な相関関係を導くための作業の部分的完了が現在地です。
余談:焼津とかつおの歴史
養老律令の頃(西暦ではなんと718年~757年頃)、すでに現代の鰹節の原型とされる煮鰹魚が ”調” と呼ばれる税金として徴収されていたようです。
想像以上に深い歴史があります。
中西部太平洋かつおの漁獲状況
漁獲方法には遠洋竿釣・まき網の2種類があるかつお。
私が小学生の頃、まき網漁と竿釣(1本釣)それぞれのかつおを観察した話をしたこともありますが、品質は魚体に傷がつきにくい竿釣が高い一方で、まき網漁は乱獲が危惧されるレベルに効率よく漁獲できる特徴もあります。
(品質面ではPSと呼ばれる例外もあるそうですが…)
狙っていない魚種が混入する可能性もあるので、今回のAI関連の取り組みにおいてもキハダマグロやその他 (シイラ等) をカツオ以外として判別していく必要があります。
漁獲量の話
漁獲量は全国的にも減少傾向にあるのだそうです。
2022年に国際機関により示された "中西部太平洋かつお資源" によると…
南方(東南アジア付近)ではまき網漁がメイン、日本近海では竿釣の割合が多いといった特徴もあるそう。
そして現在
魚種判別
かつおとキハダマグロの子供である "きめじ" は大きさが同等であることから8%程度の誤判定が発生、フェーズ 1 段階では92%の精度となっています。
データクレンジングと正規化といった作業も経て、魚種判別の精度は概ね良好といえる状態に到達していると弊社は認識しています。
キズの判別・分類
体表におけるキズ分類は人間の手によって予め定義・学習させる必要性があると捉えています。ちなみに私自身は実際の画像をセミナー中に見たのですが、体表には霜も付着するので素人にはキズと判定できないレベルです。笑
体重推定
取得したデータを基にすると、画像からおおよその体重を推定することが可能です。個体識別・個体画像面積によって作成された推定式に実測データを当てはめ、関係性をプロットすると……。
相関係数 (R2乗) が0.98あるので、一般的には強い正の相関があると言われる水準の数値であることがわかります。
さいごに:これからの妄想
まずHPにも記載されているように、静岡県は全国のかつお漁獲量の約30%を占め、中でも焼津港は水揚げ量日本一の漁港として知られています。
見方を少し変えると、日本国内で最もかつおのデータが集まる場所とも捉えることができます。
日本一データの集まる場所に導入するAI。
精度向上や再学習 (アノテーション) 等に向けて、継続的にデータ収集を行っていくこととなります。そんな中で例えば、
・漁場(海域)別に存在する環境モデル
・水揚げされた魚が持つ品質推定モデル
といった2種類のデータを紐づけ、組み合わせることができれば…
日本、いや、世界で有数のデジタル水産拠点になることも妄想できます。
こういった世界を社長の石田はサイバー空間×フィジカル空間の融合とよく表現しますが、私(こやま)のような素人目線でもこれは夢物語ではないと思える妄想です。
そういえば、弊社のnoteでもかつて取り上げたことのあるトピックである、アラスカ。米国内漁獲量の60%を占めるほどの一大漁場であるからこそ、「商業漁業<水産資源存続」として、1950年代から科学的/予防的アプローチと厳格な規制によってサステナビリティに取り組んでいます。
弊社の今回の取り組みで収集されるデータも、水産資源存続、あるいはサプライチェーン全体に活用できる "かも" しれません。
省力・品質の2軸から取り組みが始まったイシダテックのAI導入。
しかしながら、継続的なデータ収集・リアルタイムなデータ活用を図るとともに、各所へ要素技術を加えていくことができたとしたら。
資源管理~消費という大きく6段階のプロセスを持つサプライチェーン全体へデジタル化を推し進められるかもしれません。そんな漁業×デジタル化の未来も頭の片隅に想い描きながら、弊社も活動を加速していきます。
▶関連/一部引用:アラスカとサステナビリティ、そして弊社
せっかくなので:いただいたご質問への回答集
あくまでもロジックは一例であり、まき網漁を対象としている。
学習していないデータ=unknownであり、ラベル付けで判定は可能。
スケソウダラの例を引き合いに出すならば、アラスカ・ダッチハーバーでは何尾漁獲したかを重量ベースで判定する。この観点に関しては魚種判別と体重選別に向けて取り組んでいる弊社としてはまだアイデアとしても持ち合わせていない観点。しかしながら今後実現を検討したい。
かつおの良否判定においてはOK/NG双方を学習させている。
判定したいワークに合わせて学習あるいはアノテーションをしていく必要あり。
イシダテックとしても生育状況や成熟度は水技研さんに意見を仰ぎたい…!
シャッタースピードの速いカメラを用いることで動いているものも判別可能と考えています。無足類=別品種は何かしらの外観的特徴によってラベル付けなどが可能であれば判別可能と考えている。
おわりに
▶HP