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THE DAY|エクストリーム茜さん編(客観編)#notethon

最近、時が経つのが早くなりました。

目覚めたら明日になっていました。この間まで春だったのに、もう8月も終わりに近いです。気がつけばわたし——須藤茜も××歳になっていました。昔はもっとゆったりと時間が流れていたはずなのに。体感では小学生時代が人生の半分を占めているように感じます。

人は歳をとるほど相対的に時間の流れが早く感じられるとかなんとか、ジャネという偉い人が言っていました。この調子でいけば、あっという間に10年、100年が経ってしまいます。

100年後の自分は元気だろうか。朝寝坊は治ってる? カメラは上達してる? 静岡のまちは、どうなっているんだろう? そんなことをぼんやり考えながら、首をめぐらせて時刻を確認します。

ベッド傍のドラえもん型置き時計は8時5分を指していました。このドラえもんは、わたしが小学生のときに父が買ってくれたものです。中学に進学したときには使わなくなってしまったのですが、最近まで使っていた時計が壊れてしまったので、押し入れから引っ張り出して(ドラえもんだけに)一時的に再利用しています。

年代物だけあって、あちこちにガタがきています。昔のように「のび太くん、起きる時間だよ」とおしゃべりせず、「うごう、うごご、ずべんっ」とビニール袋を吸い込んだ掃除機みたいに呻くので、目覚まし機能は使っていません。ときどき長針が6と7の間を行ったり来たりして遅れるけど、ひっくり返して叩けば直ります。

塗装のはげたドラえもんの顔を見ていたら、「お前もずいぶんと歳をとったな」と、しんみりした気持ちになりました。

……いや、しんみりしている場合ではありません。

もうすぐ仕事の時間です。ベッドの縁に腰掛けて、一日のスケジュールを確認します。今日はさいわい朝から出かける用事はありません。13時の取材までは自宅で事務仕事をする予定です。スマホと本を一冊持って、ダイニングに向かいます。

テーブルには一人分の朝食が用意されていました。食パンとサラダとスクランブルエッグ。あとカップのヨーグルト。家族はもう、出かけてしまったようです。セミの鳴き声だけがうっすらと聞こえます。

トースターに食パンを一枚入れ、焼き上がるまでの間に緑茶を淹れます(親戚がお茶農家をやっているので、我が家は三食で緑茶が出ます)。マーマレードの瓶を開けると、甘酸っぱい匂いが鼻を刺激します。朝だ、と思いました。いまさらです。

朝食を食べながらスマホを開いてSNSをチェックします。これも仕事のうちです。フォロワーは増えているか、自社のSNSで発信した情報が拡散されていないか、知り合いが素敵な発言をしてないか。そんなことを、ニュースサイトやフォローしているアカウントを巡回しながら確認します。

もうすぐオープンするシフォンケーキのお店を宣伝したいと思いました。どんな切り口で宣伝しよう。SNSが得意なカメラ屋さんがあるから相談しようかな。そんなことを、ヨーグルトの容器の端をスプーンでつつきながら考えました。

緑茶を一口すすり、本を開きます。タイトルは『心理的安全性のつくりかた』。午後にインタビューする企業の取り組みに深く関係する本です。インタビュー前に一通り頭に入れておきたいところです。

なぜなら、なにをかくそう、インタビュアーはわたし、茜なのです。

株式会社LEAPH——それがわたしの勤めている会社の名前。よく「リープ」とか、「リーファ」とか間違えられるけど、「リーフ」が正しい読み方です。

企業のホームページをつくったり、WEBマーケティングをしたり、「静岡みんなの広報」というメディアを運営したりしながら、社会やクライアントの問題解決に勤しんでいる会社です。

LEAPHにはオフィスがなく、したがって出社の概念もありません。社員全員がリアルの場で顔を合わせるのは月に一度だけで、基本的にみんなリモートワークです。

でも、社員たちはみんなゆるくつながっていて、お互いに気遣いながら仕事をしつつ、必要とあれば他の人の業務を助けたりします。いつも、みんな何かしら自分勝手に勉強しています。そんな不思議な職場です。

わたしはそこで広報の仕事をしています。広報といつつも、営業っぽいこともするし、取材記事を書くときはインタビュアーもします。

現地に向かう前にもう一度、取材の流れをシミュレーションをしておこうと思いました。残った緑茶をぐいっと飲み干し、早足で自室に戻ります。ごちそうさまでした。

取材の質問に軽く目を通し、担当の山田さん(仮)を脳内に描きます。最初にこれを聞く、次にこれを聞く、もしかしたらこういうリアクションがあるかもしれない、念のため追加の質問を用意しておこう……なんて考えていたら、緊張してきました。脚がプルプルふるえています。ほら、こんなに。

背中から汗が吹き出るのを感じます。こわい。くるしい。助けてよ、ドラえもん……そんな気持ちになってきますが、わたしのドラえもんはビニール袋を吸い込んだ掃除機です。頼れません。

ふぅっと息を大きく吸い込んで、ひとまず心を落ち着けます。

静岡みんなの広報が始まったのは昨年の5月。それまでわたしはインタビュー経験ゼロでした。大先輩からレクチャーをしていただいたり、インタビューにまつわる記事や本を読んだり、社内でのフィードバックを受けたりして、一進一退七転八倒奇妙奇天烈摩訶不思議で進んできました。

理想のインタビュアー像からは程遠いです。インタビュー中、相手の言葉にうまくリアクションを取れず、変な間をつくって恥ずかしくなることもあります。インタビュー後にも、「なんであの質問をしなかったんだ、自分のバカバカバカ」と煩悶することもしばしばあります。それに、いまだに緊張します。

でも、一年前よりはだいぶ前進したように感じます。

昨日よりも、ちょっと良い社会を創っていこう。

それがLEAPHのパーパス(目的)です。「ちょっと良い」というのが肝だと思っています。一気にゴールまでいかなくていい、昨日より、ちょっとだけ良くなっていればいい。その「ちょっと」の積み重ねが、いつか社会を大きく前進させるのです。インタビューも同じです。前回の反省を活かして、ちょっとだけ良いインタビュアーになればいいんです。

いつしか脚のふるえは止まっていました。このとおりです。

取材内容をおさらいし、方々にメールを送り、新たな企画の下書きをしていたら、出かける時間です。荷物をまとめ、家を出ます。

日差しが強く、目を細めます。セミの鳴き声が一層強くなりました。その中には、夏の終わりを告げるツクツクボウシの鳴き声もちらほら混じってきているみたいです。

取材が終わったらアイスを食べよう、と思いました。コンビニで売っているアーモンドチョコアイスが最近のお気に入りです。口の中に広がるチョコレートとバニラを想像します。それだけでちょっとだけ心が軽くなり、ちょっとだけ理想のインタビュアーに近づけた気がしました。たぶん気のせいです。

こんにちは、LEAPHのライター蓬生(ほうしょう)です。

「茜さんについて書く」という題材をもらったとき、僕は愕然としました。それは僕にとってベンガルトラの生態について書くのと同じくらいの難題でした。僕は茜さんを知りません。もちろん、存在としては知っています。打ち合わせもするし、一緒に取材にも行きます。でもそれは「仕事をしている茜さん」という一側面を知っているだけにすぎません。

だったら、茜さんを根掘り葉掘りスコップで掘り下げて真実の根っこを引っ張り出せよと思われるかもしれませんが、それこそ野生の茜さんから遠のいてしまいます。動物園で暮らしているベンガルトラを見て、「これがベンガルトラの真実の姿だ」と決めつけるような蛮行です。

イギリスの数学者、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドは言いました。

完璧な真実などない。 すべての真実は、半面の真実なのだ。 それを完璧な真実として扱おうとすると、支離滅裂なことになるのである。

アルフレッドの格言を正確に理解できたかはわかりませんが、僕は悩んだ末に決断しました。半面しかない真実を無理に扱おうとして茜さんを支離滅裂な存在にするくらいだったら、すべてを妄想で補完してしまえばいい。

そう考えた僕は、その日、取材先の会社で合流するまでの茜さんを脳内につくりだしました。

つまり、上記の茜さんは9割が僕の妄想です。アーモンドチョコアイスを食べていたのも僕です(「カリッとアーモンド」は⚪️ブン⚪️レブンで販売中です)。すみません。おいしゅうございました。

しかし、イギリス・ヴィクトリア時代の美術評論家、ジョン・ラスキンは言いました。

求めることなくして、真実を知ることはまったくできない。

茜さんの断片はきっと、静岡みんなの広報のいたるところに散らばっているはずです。真実の茜さんは、みなさんのその目で求め、確かめてください。

——というメッセージを伝えたところで、今回は筆を置きたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

▼茜さんが大活躍するメディア「静岡みんなの広報」はこちら▼



こちらの記事は2023/09/20~2023/09/21にかけて実施した #notethon にあたって作成されたものです。 茜さんにはなんと本日深夜に再登板していただきます!客観編、ということは… おたのしみに…!(こやま)

special thanks 蓬生さん