そろそろ「憧れの」カラーテレビがほしい。
技術部の渡邊です。
私のオモシロ生態が気になる方がいらっしゃるそうで…
「1本書いてみませんか?」とこやまよりお誘いを受け、筆を執りました。
4年振りの執筆によせて&今回のテーマ
それこそ以前はYahoo!ブログに備忘としてやっていたことをつらつら書いていたものの、今回の執筆は2019年のサービス終了以来4年ぶりのことで、どのように書いていたかもはや思い出せませんが、好き勝手書いてみます。
ちょうど1年前に新しいテレビがやってきたので、導入から完成までのお話をしようと思います。拙い文章ですが、お読みいただけますと幸いです。
そろそろカラーテレビがほしい
東京オリンピックが終わってしばらくした頃……
そろそろ我が家にもカラーテレビがあったら、と思うようになりました。
乗れなかった波とカラーテレビへの憧れ
「東京オリンピックをカラーで見よう」といったキャッチフレーズもあったそうですが、我が家はその波に乗れず画面は灰色のまま終わったわけです。
そこでカラーテレビへの憧れから、大阪万博までにはカラーテレビを導入してみせると意気込んだわけです。では、どんなテレビを買おうか―。
検討に検討を重ね、下記の三点に適合する製品を探すことにしました。
選定条件
①オール真空管で動作すること
理由は、単なる趣味です。
性能でいえばトランジスタを採用したテレビにしたほうが良いわけですが、なんとなく面白みがありません。
②幅の長くないコンソール型であること
といっても当時の真空管カラーテレビはほとんどがコンソール型。
他の選択肢はないと思いますが、気にしていたのは置き場所です。
今まで使ってきた真空管テレビとはまるでサイズが違います。
テレビを設置できるのは機材がおかれた6畳部屋の一角にしかなく、やたら操作パネルの大きい機種は除くことにしました。
③カラー自慢がされていること
これがカラーテレビを買うにあたって一番重要なポイントでした。
カラー調整つまみのインジゲータが光ることは必須です。
選定条件に適合するテレビを探して
この時代のカラーテレビは数が少なく、なかなか良いものに出会えません。
東芝ユニカラー、松下パナカラーあたりであれば何とか手に入りそうかなという感じで、良いものが出るのをひたすら待ちました。
最終的な候補には松下パナカラーのTK-970Dという機種が残りました。
しかし、松下のテレビは部品を内製していたからか、「特殊な複合部品」が使用されていることがあります。その部品が故障した場合、大変な修理になることから、買うか買わないかで相当悩みました。
運命の出会い
そんなある日、ヤフーオークションにやたら古そうな日立キドカラーが出品されていることに気が付きました。写真を見ると……。
立派なコンソール型テレビに自慢気な「COLOR」の文字、そして今にも光りそうなカラー調整つまみが並んでいました。操作パネルも細長いタイプで幅も大丈夫そうです。
こ れ だ !
ついに入札ボタンを押してしまいましたが、競われることはなく落札完了。
これでようやく私のもとにカラーテレビがやってきます―。
”オーラ” を放つテレビ
ある日の早朝、私はテレビの引き取り先へ車を走らせていました。
引き取り先に到着すると、そこにはものすごいオーラを放つテレビが。
車に積み込んで自宅を目指し、帰宅する頃には夜になっていました。
友人にも手伝ってもらい、なんとかテレビを搬入。
設置された姿を見て期待が膨らみます。
早速電源を入れたくなるが…
製造からは50年以上が経過し、30年は電源も入れていないであろう代物。
動くわけがありません。通電させることで壊してしまうリスクもあります。
テレビの裏蓋を開けてみると、期待通り真空管が並んでいます。
そして、長年積もったホコリも見えます。
このままでは点検できないので
簡単に掃除をして、シャシーを引っ張り出すことに。
衝撃的なシャシーの裏側
シャシーをひっくり返してたまらず、「うぁあ…」と声を出してしまいました。真空管で組まれた家電としては最高峰であると思われるカラーテレビ。その中身は部品が無いところは無いくらい詰めこまれています。
当時はこれを女工さんが組んでおり、すごい時代だったのだろうなぁと思ってしまいます。そして、この中から故障箇所を探し出し、さらに復活させるという気の遠くなるような修理が待っていることが確実となりました。
修理に取り掛かる
しかし、オブジェにしたまま大阪万博を迎えるわけにもいきません。
まずは目視と今までの経験から交換すべき部品をピックアップします。
1960年代の製品となればコンデンサの信頼性は上がっているようで、あからさまに「やばい」見た目のものはないものの、交換した方が良いものがほとんどでしょう。
ケミコンやペーパーコンは無条件交換、電源のダイオードも交換します。
「徐々に」通電させる
徐々に通電させ、電流値を確認しながらチェックしていきます。その後、100Vを印加しても問題なく通電できるように。
ここまでくれば、症状をチェックしながらダメになっていると思われる回路を直していくだけです。
しかし、ラスタが出ない
要は、テレビの電源が入りスピーカーから音は出ているものの、画面が一切光らない。修理不可能な故障も考えられる、個人的に最も嫌な状態です。
ブラウン管テレビのブラウン管は一種の真空管です。
管の中に空気が入ったり、内部のヒーターが断線していたりする場合はブラウン管を交換する以外手だてがありません。
50年前のテレビ、そんな交換部品はもう手に入りません。
素人の私はブラウン管テスターなんて物を持っていないので、生きていることを願いながらラスタの出ない原因を探るしかありません。
唯一の希望として、ブラウン管に空気が入ってしまえば、たちまちヒーターが断線すると考えられますが、この個体は電源を入れたときにブラウン管のヒーターが正常に灯っていたこと、カラーテレビなので全ての電子銃が壊れているとは考えにくかったため修理を続行しました。
不具合があると予想した高圧回路やその周辺にを中心に点検していきます。
水平出力管が赤熱しているのも気になります。
途中で6BK4(真空管)につながる配線に断線を見つけました。
根本で断線しているようです。
見た目を変えたくないので、ヒートガンとカッターを使ってできる限り壊さないように、ゆっくりと部品を分離させていきます。
分離させると、腐食断線していることがわかりました。
線を剥き直して再ハンダで処理しました。
同様の構造のものがフライバックトランスの部分にもあるのでこちらも処置を行います。
電圧チェックは古来の方法で
その後、高圧が出ているのかを確かめたいのですが、高圧プローブなんてものは持っていないので、古来の方法で行いました。この部分は、23KVと非常に高い電圧がかかっているので注意しながらの作業です。
結果期待したものは出たものの、弱々しさがありテレビを映せる程の電圧はなさそう。その後は、他に断線箇所がないか探りながら作業していきます。
水平出力管やダンパー管もお疲れの様子でしたので、新品に交換します。
再度テストを行うと…
再度古来の方法でテストしますと、なんということでしょう。
今までには考えられなかったほど元気に “期待したもの” が出ています。
これは… 来たのでは…!一度組み上げて、各種つまみを調整すると……。
ついに画面に映像が映し出されました。
最初に映し出された映像は、緑っぽく非常に暗いもの。
ですがこんなにうれしい日はありませんし、ブラウン管が生きていたことがわかり安堵する瞬間でした。
画質の調整を進めていく
やっと画面が映ったものの、なんとも緑色っぽく本来の色とは違った感じで写っています。これではまだテレビとしては使えませんが、ここまでくればあと一息です。
カラー調整
テレビ画面にテストパターンを表示させて、スタティックコンバーゼンス調整とダイナミック・コンバーゼンス調整を行います。要は、RGBの電子銃が適した場所にあたり色ずれなどがないようにする作業です。
テレビの前に鏡を置いて、裏側に手を突っ込んで行う中腰作業。
おかげさまで腰が痛くなりました。
完成とその後
白バランス調整によりやっとまともな色で映し出されるようになりました。使用しながら色調整を行い、現在ではそれなりにくっきりはっきり映るように、そして好みの画質で見られるまでになりました。
当時から普通に使う分にも調整が大変だったと言われているものの、たまにツマミに触って調整するくらいです。このあたりは電波品質や新しい部品の特性向上等が関係しているかもしれませんね。
ついに我が家にもカラーテレビが!
白黒では味わえなかった感動がそこにあります。
しばらく使ってわかったことが、画質は白黒テレビの方が繊細であること。
これはシャドウマスクブラウン管の宿命ではありますが、実際に見てみるとその気づきは大きいと感じました。
おわりに
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渡邊さんのような機械好き、探しています。