菌・わさび・EMT
イシダテック 総務部の小山です。
先週突然 #わたしの野菜づくり としてわさび人工栽培の話を始めました。
今週の記事では、主に技術的な内容に一歩踏み込みます!
中でも秘密兵器「EMT」が活躍する可能性について言及していきます。
またも突然ですが、「菌」の話をします
まず、「菌」は人類にとってなくてはならないものです。
代表例はキノコ・カビ・酵母などがあげられますが、例えば日本酒を作るとするなら酵母が必要ですよね。
弊社のある静岡県内にも目を向けてみると、地酒が有名になった一つのきっかけが河村伝兵衛氏が開発した「静岡酵母」なんてエピソードもあります。
でも、好ましくないはたらきをする菌もある
そんな人類にとってなくてはならぬもの、菌。
しかし植物、特にわさびを生育する閉鎖空間の中では、
植物の光合成を阻害してしまう菌
栽培設備に付着して環境を悪化させてしまう菌
といった「好ましくないはたらきをする菌」が繁殖してしまうことも。
わさびの栽培モジュール化にあたっても、一つの課題となっていました。
EMTと、空間・表面殺菌テスト
ここで登場するのが先週の記事でご紹介したEMT。
「好ましくないはたらきをする菌」を滅殺する可能性を持つ秘密兵器です。
時は少しさかのぼって、2021年 ―。
あるお客様に、ナチュラルチーズ加工室にてこの空間・表面殺菌装置をテストしていただいていました。
試験結果の前に、EMTについておさらいしよう
そんなEMT、
独特の匂いを持つオゾンを用いないので無臭
目に見える何かが出てくるわけではない
動作音もほとんどしない
といった特徴も持っています。
何が言いたいかというと、効果あり/なしは目に見えてわかりません。
そこで先述のナチュラルチーズ加工室におけるテストに至ったわけですが、お客様からいただいた結果を見て、愕然とします。
カビ、激減。
え、これ効くんだ ―。
もしかして : EMT × わさび栽培 = ???
テスト後、事業推進室 * セールスマネージャの藤井は、複数のお客様とのさらなる実証テストや、米国側の技術者との議論を通じて、EMT稼働に適している環境を明確にしていきました。
そんな中、EMT社ランディ社長からはこんな言葉を受け取っていました。
「アメリカではマリファナの栽培場で使用したらカビの繁殖が抑えられ、収穫率がめちゃくちゃ上がった」
ForbesJapanの記事を見ると、マリファナ栽培もモジュール型。
そう、つまり栽培モジュールで生育するわさびにも、いける……!
時を戻そう
― 2022年、6月。
わさび栽培モジュール内で うどん粉病 * が発生したことを聞きつけました。
EMT、試験するしかないやつ
ここで再びEMTの登場です。
一度罹患している葉だけをざっくりと剪定し、その後3週間EMTを稼働させました。その他対策が未実施な状態では、うどん粉病はまたしても蔓延してしまっているはず。
運用結果は……。
やっぱりEMTって効くんだ ―。
そう確信する結果にもなりました。
うどん粉病対策、EMTしか勝たん。
そもそもうどん粉病を防いだり、あるいは拡大を防ぐには、
風通しの良い場所で育てる
日当たりの良い環境で育てる
密植(密集して植えること)を避ける
そもそも同じ種類の植物をたくさん並べない
といった対策一般的に行われるそう。
確かにこれらの方法は露地栽培ならできなくなさそう。
でも、このわさびは屋内の省スペースな栽培モジュールで育てています。
農薬という手もありますが、付加価値という観点では避けたい選択です。
そんな中で効果が実証されたので、EMTはまさに秘密兵器となりました。
わさび栽培におけるイシダテックの担当範囲
結果、弊社の担当範囲は「モジュール試作機の設計・製造」と「EMT導入」になりました。また静岡R&Dセンターとして、弊社構内の未使用コンテナをモジュールに改造することを目論んでいます。
これからのわさびモバイル農業
わさびモバイル農業自体の未来を語るのは、株式会社NEXTAGEの中村社長にお譲りしますが、社長の脳内ではこんな妄想が広がっているようです…。
①わさび栽培レシピのデジタル化
様々な変数はあるものの、2年間の研究開発を経てすでに食べられるわさびができています。
あとはコントロールされている環境下で、デジタルにわさび栽培レシピを管理できれば、例えばストックホルムに設置した栽培モジュールで「焼津わさび」レシピを再現して、IKEA様の食堂に置いてもらうこともできます。
②無農薬・隔離された空間での栽培
EMTを使用すれば、概ねカビ・菌類から生じる植物の不調から開放されるため無農薬栽培でわさびを育成できます。
そして周囲から隔離された環境で栽培するため、混入(コンタミネーション)などが発生するリスクも抑えられ、さらに付加価値の高い農作物ができるようになります。それも日本発の技術で。
③洋上農業
わさび栽培モジュールは海上輸送コンテナを基本の形として構想されているため、洋上での栽培も可能になると妄想しています。
長期間の航行中にわさびを育て、寄港地の先々でわさびを販売する、ということも可能になるのではないかと思っています。
④デジタルツイン
栽培はデジタルで、摂食はリアルという形式。
サイバー空間上にマイわさび棚を用意して、育成状況のリアルタイム監視と剪定などの世話はデジタルで実施して、収穫したら自宅に届けられる…。
みたいなことでも面白いと思っています。
私のような人間は、全く別のわさびが届いても気づかないかもしれませんが……。
おわりに